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小沢一郎氏、無罪判決で復権 

永田町、仁義なき抗争へ 「小沢切り」なら新党も

 あの豪腕政治家、民主党の小沢一郎元代表が東京地裁で無罪判決を受けた。それにより、小沢氏は再び政界の表舞台に躍り出ることになった。これに脅威を感じているのが野田佳彦首相だ。「政治生命を懸ける」と言い切った消費増税導入について、二人の意見は正反対。小沢氏の動向しだいでは、首相交代の可能性はもちろん、離党・新党結成の可能性すら出てくる。一方、野党も消費増税を実現したいのなら「小沢氏を切れ」と首相に迫っており、政局の行方は一気に混迷の度を増してきた。


元秘書との共謀認めず

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小沢一郎氏

 政治資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる事件で、東京地裁(大善文男裁判長)は4月26日午前、政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で強制起訴された小沢氏に無罪(求刑禁錮3年)を言い渡した。

 この事件はもともと検察が不起訴にしたものを検察審査会の起訴議決により強制起訴されたもの。初公判は、昨年10月6日で、元秘書との共謀の有無、虚偽記載の有無、強制起訴の適法性が争点となり、17回目の公判での判決となった。

 判決文では、小沢氏の説明を「一般的に不自然な内容で変遷がある」と指摘し、問題発覚後も一度も収支報告書を見ていないと述べた点については特に、「およそ信じられない」と疑念を呈した。さらに、自己資金の4億円を担保に銀行から融資を受けることについても、元秘書から説明を受け、了承していたと認めるなど、検察官役の指定弁護士側の主張に沿った事実認定をし、「共謀を疑うことには相応の根拠がある」と述べた。

 しかしながら、元秘書による虚偽記載を認定した上で、「小沢被告が記載の違法性を認識していなかった可能性を否定できない」として、元秘書との共謀までは認めなかったのである。つまり、「疑わしきは被告人の利益に」の原則の下、「あくまでもグレーなので黒にはしない」といった、限りなく有罪に近い白(無罪)判決になったのだ。

野田主流派への宣戦布告

 それでも白は白だ。判決を受けての同日昼。衆院議員会館で小沢系の「新しい政策研究会」のメンバー105人が気勢を上げた。事務総長の東祥三前内閣府副大臣が「原点に戻って全力で戦っていく」と決意表明をしたが、これは野田主流派に対する宣戦布告であり、党内抗争の勃発を意味する。

 「原点に戻るとは、国民に約束をしなかった消費増税に真っ向から反対していくことだ。小沢さんを晴れて総大将として迎え、野田主流派との全面対決に臨む狼煙(のろし)を上げた瞬間だった」と政界関係者は解説する。

 無罪を勝ち取った小沢氏にとっての次の一歩は、自らに対する党員資格停止処分を解除してもらうことだ。今回の裁判が原因でくらった処分なので、小沢氏とすればすぐにでも解除してもらい党内工作に本格的に着手したいところだろう。

 その意を測ってか、小沢氏に近い輿石東・民主党幹事長が早速、連休明けの8日の党常任幹事会で小沢氏の党員資格停止処分の解除手続きに入ることを明言したのである。記者会見でも幹事長は「(小沢氏には)いろいろな会議に出てもらえるし、意見も堂々と主張してもらえる」とウェルカムバック発言をした。

 また、輿石幹事長は自民党の谷垣禎一総裁が「政治的、道義的責任は明白だ。徹底して説明責任を果たすよう求めていく」と述べ、証人喚問を求めていく考えを強調したのに対しても「(無罪という)結果が出たわけだから、必要ないと思っている」と述べるとともに「本人はいろんな場所で説明責任を果たしている。まだ足りないという人は、本人に直接聞けばいい」と跳ね返した。

 さらに、小沢氏の取り巻きたちの意気は高揚している。昨年2月、処分を決めた岡田克也幹事長(当時)に対して「罪のない人を処分した。『申し訳ない』で済むか」などの憤懣(ふんまん)を連発。副総理として入閣している岡田氏の責任を問うべきだとまでエスカレートしている。

 これに対して、資格停止の期限を「判決確定まで」とした岡田氏らは態度を保留。反小沢の急先鋒とも言える前原誠司政調会長は「指定弁護人が控訴するか推移を見守ることが大事だ」と述べ、解除に慎重な姿勢を示した。

主流派、小沢復権に強い警戒心

 野田首相はじめ主流派の多くの表情は、党の元代表が無罪になったにもかかわらず深刻さを隠さず小沢氏の復権に強い警戒心を抱いており、判決についてマスコミから尋ねられても多くが「ノーコメント」だった。判決直後の衆議院本会議場では、首相の指南役の藤井裕久党税制調査会長が「あんなの関係ない」と首相に判決を気にしないよう激励したが、「国会だけでなく官邸にも暗いムードが漂っていた」(与党幹部)という。それほど、小沢氏のこれからが気になるのだろう。

 では、小沢氏は今後、どう出るかー。

 先の政界関係者はこう指摘する。

 「第1に考えられるのが、首相の代表任期が満了となる9月の代表選での出馬だ。小沢さんとすれば自民党や公明党の要求する早期の解散・総選挙は避けたい。その理由は、小沢グループの多くが次期総選挙で落選確実とさえ言われる若手ぞろいだからだ。従って、民主党政権を継続させつつ、消費税率引き上げ関連法案の国会提出に抗議して3月30日に政府・党の役職を集団辞任した小沢グループ約30人の復権を図ると同時に、党代表代行、選挙対策責任者のポストを得て党内の基盤固めをする」というもの。

 ただ、9月の代表選に出馬するのが本人か小沢氏の意向を受けた候補者かは不明だが、いずれにせよ自分たちの陣営が勝利してマニフェスト(政権公約)を原点に戻して来年の国政選挙に備え、それに勝利し再び政権を維持するシナリオだ。

 「第2は、首相と対立する消費増税問題での対処で、あくまでも反対を固持し衆院での採決で反対票を投じて法案成立をつぶし、政治生命を懸けると公言した野田首相を引きずり降ろす。その時、解散に踏み切らせず、内閣総辞職をさせて野田さんとは別のシャッポ(頭)を担ぎ上げて自前の民主党政権をつくる」というもの。

 小沢氏は消費増税反対を明言し、増税路線を変えなければ倒閣することを示唆している。それ故、野田首相が消費増税導入を貫徹するなら党内融和は果たせず、野田政権は内閣不信任として自ら辞任に追い込まれ、代表選を行って新たな代表の下で新政権を発足させるシナリオだ。

 ちょうど鳩山由紀夫首相(当時)が一昨年の5月末に、米軍普天間基地の移設に関して「辺野古」に回帰した発言をして突然辞任し、菅直人氏がその後を継いだように、夏前の首相交代の可能性は否定できない。

 「次に考えられるシナリオは、首相が小沢氏の同意を得られず、自民党と話し合い解散で合意して消費増税に賛成してもらうものだ。法案自体は参院での与党少数という現実を見れば野党の協力がいる。だが、消費増税を実現して解散に踏み切るのは民主党にとって『自爆解散』とも言える。それに小沢さんは乗るはずがないので、その時は原点回帰のマニフェストを旗印として離党・新党を結成して総選挙に臨む」というものだ。

 橋下徹大阪市長がその際、小沢氏に同調して行動を共にするとなれば新党結成

 今のところ「小沢さんと一緒になることは一切ない」と言い切っている松井一郎大阪府知事(大阪維新の会幹事長)だが、大村秀章愛知県知事や河村たかし名古屋市長ら勢いのある地域政党のリーダーたちが小沢氏に接近しており、石原慎太郎東京都知事との連携も模索している橋下市長がどう動くかが政局に影響することも確かだ。

天に唾する石原問題発言

 その石原都知事は4月27日の都庁定例会見で、小沢氏の判決について「灰色、それも限りなく黒に近い」と断じ、連携への道を自ら封印する手に出た。これには石原都知事を支持してきた支持者の間からブーイングの声が高く上がっている。

 政治家がただ権力を求めて野合するほど醜いものはないが、だからといってただ相手の足を引っ張るような泥仕合は少なくとも政権のトップを目指そうという人物のすることではないからだ。何より政治家たるもの、自らの懐を探られれば汚物にまみれていないのはほぼ例外中の例外だ。これに関しては次号で、紙幅が許せばリポートしたい。

 さて一方、自民党サイドは、消費増税を実現したいのなら「小沢氏と手を切れ」と首相に迫っている。小沢氏に近い議員は衆院では50-60人ほど。その数を引いても自民党が賛成に回れば、衆参両院で多数となり法案を成立させることができる。

 首相とすれば「その勢いで自民党と組んで大連立も」との計算が頭をよぎることがしばしばだろう。しかし、それは大きな危険な賭けだ。自民党が本当に乗ってくれて賛成票を投じてくれる保障はない。それ故、どうしても民主党内の融和を求め、内閣改造・党役員人事などで小沢氏の要求を可能な限り呑み続けていくことになるだろう。

 豪腕政治家・小沢氏は「最後のご奉公をしたい」と覚悟を語ったが、どういう「ご奉公」を念頭に置いているのか。小沢氏復権で政界は混迷の度を深めている。

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