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大企業の品格を問う/第二弾 経営者から見た政治 道川研一

中小企業締上げの覇道廃し業界育成し守ってこそ王道

 企業経営者なら誰しも手形と何らかの関わりを持つものだ。苦しめられた経験がある方も少なくないのではないだろうか。

 日本の商業には昔から手形や支払いサイトといった仕組みがある。中小企業にとっては支払いを少しでも先に延ばせるありがたいものである。しかしその仕組みは上場企業でも当然のごとく利用されており、受注側の中小企業にとっては大きな負担となっている。そればかりでなく、中小企業が上場企業から仕入れる場合に、保証金を積ませるケースも多く見受けられる。これでは立場の弱い中小企業は、締め上げられるばかりだ。

 手形は日本の独自の文化と思われる嫌いもあるが、そもそもは中世に地中海沿岸の都市で発達した両替商が発行した手形に始まる。文化、通貨の異なる国々が国境を接し、様々な物品を流通させて来たヨーロッパで手形という形態が便利に使われ発展した経緯は理解に難くない。日本における手形は明治維新以降にヨーロッパですでに発達していたものが、イタリア商人によって伝えられ定着したものと言われ、1879年(明治12年)に大阪手形交換所が、1887年(明治20年)に東京手形交換所が開設され現在に至っている。

 しかし、現在も諸外国で使用される手形は為替手形であり、日本でいう約束手形はほとんど使用されていない。手形が日本独自と思われがちな理由もそこにあるのだろう。

 約束手形が日本で普及したのには、手元に現金がなくてもなんとか仕入をしようとした商人の知恵があったのだろう。約束手形を振り出し、支払いサイトを設け、支払いまでに一定の猶予を持つことでキャッシュフローに隙間を生み出し、互いに少しずつゆとりを持つことができた。中小企業同士がこうして助け合うにはよい仕組みである。大いに活用すべきだ。しかし、上場企業や大手企業ではどうか。

 上場企業や大手企業が中小企業に発注する場合に約束手形を振り出し、支払いサイトを設けて支払いを延ばしている現状は中小企業の経営を圧迫し成長を阻む結果になっている。かつての商人同士が助け合うという意義はなくなり、弱者が苦しめられているのが実状だ。上場企業や大手企業が中小企業に発注する場合には約束手形を即刻廃止し、支払いサイトは限りなく短くすべきである。

 逆の場合もある。中小企業が上場企業や大手企業から仕入れる場合だ。大手からしか仕入れることができない商材を中小企業が仕入れる場合に保証金を積ませたり、前金や現金支払いを要求したりする。これも即刻廃止すべきである。

 世界に知られる日本の上場企業や大手企業が口先ばかりのグローバル化を謳いながら、日本国内では同じ業界で生きる中小企業を締め付けて成り立っている。その構造そのものが諸外国に恥ずべきことではないだろうか。

 業界を担う大企業となったからこそ、業界の中小企業が健全に成長するのを助ける存在でなければならない。それが大企業の品格というものだ。上場企業や大手企業が約束手形や支払いサイト、保証金などというものを廃止すれば中小企業にとっては資金繰りに大きなゆとりが生まれ、資金を銀行から借り入れするよりも余程よいはずだ。

 他業種については一般論になってしまいがちなので、私が30年に渡り深い関わりを持って来た自動車業界での具体的な話をしよう。自動車業界には自動車部品を扱う独立系の部品商が全国に約2000社ある。トヨタや日産、ホンダをはじめとするメーカー直営の部品会社から部品を仕入れ、各地の整備工場や鈑金工場へ供給する会社だ。自動車自体がメーカーで生産されたものであるがゆえに、部品もメーカーが生産したものが売上げのほとんどを占めている。つまりメーカーと取引するしかない立場なのだ。

 取引するために予め保証金を積まされているにもかかわらず、景気が悪くなるとさらに1ヶ月分、2ヶ月分の保証金を積み増せと言われ、苦しいときほど二重三重に積まされる。そうまでしても地域に対する独占権を得られるわけでもなく、メーカーは整備工場や鈑金工場への直販までしてしまう。苦しくても、矛盾をわかっていても黙って従わざるを得ない。私のような法律の素人から見てもこれは独占禁止法に抵触しているのではないかと思えてしまうが、仮に部品商側が公の場へ訴え出たいと考えたとしても、メーカーからの仕入が止まれば裁判の結果が出るまで待つ体力がないのは明らかだ。だから誰もそんなことはできないのだろう。

 日本の自動車産業が急速な発展を遂げたのは、この全国2000社に及ぶ部品商による部品供給システムがあったからこそである。メーカーだけではそれほどの流通網を作り上げることは決してできなかったはずだ。ところが業界が成熟し、新車の販売も頭打ちとなれば、部品で利益を得るために部品商を排除し、メーカーが部品市場をもコントロールしようとなる。これでは独立系の中小企業はたちどころに淘汰されてしまう。

 為すべきことはまったく逆だ。

 景気が悪いときにこそ大企業側は支払いは早める、入金は待ってやるなど、業界の中小企業を守り育てる措置を講ずるべきである。それは大企業としてのひとつの大きな使命だ。

 中小企業が元気にならなければ、景気は決してよくならない。上場企業や大手企業が手形や支払いサイト、保証金を廃止するだけで経済は一気に息を吹き返すはずだ。

 形ばかりグローバル化、コンプライアンスと言いながらまったく実現できていない大企業の現状がこのまま続くのであれば、政界が中心となり、法制度をもってそれらを廃止する必要があるだろう。

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