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ペマ・ギャルポのアジア時評

トランプ大統領と中国の駆け引き

 アメリカのドナルド・トランプ大統領は就任から100日経っても政権の明確な姿勢は読めない、予測しにくい存在のままである。ただ一つだけ言えることは、中国と北朝鮮を分断することには成功しているようである。おそらく今ほど中国と北朝鮮の仲が悪い時代はなかったなのではないだろうか?

 双方の間に深刻な不信感が増していることは、両国の機関紙などを見ても明白である。これはトランプ大統領の中国に対する圧力が功を奏しているからである。臭いものを元から切るという意味では正しい手法である。

 習近平国家主席の訪米中にシリアを空爆し、しかもその事実を歓迎夕食会で通知することで、アメリカの力と本気を見せしめた。この予想外の出来事に習近平主席も「理解」を示すはめになった。面子を重んじる中国人、習近平主席にとって不愉快なことであったに違いない。

 一方、トランプ大統領は一本とった気分になっただろう。その後もトランプ大統領は「尊敬する」習近平主席に北朝鮮問題で圧力をかけ続けた。だが、中国がアメリカの圧力に屈しても、北朝鮮が中国の圧力に屈するかは別問題である。

 秋の共産党大会を控えている習近平主席は、毛沢東以来の権力者「核心」の地位を獲得したとはいえ敵対勢力が潜在しないわけではないので、立場に微妙な影響は無いとは言えない。先頭を切って異議を唱える人がいなくても「1061年以来の『歯と唇の関係』にあってパキスタンを除いて唯一の同盟国である北朝鮮を見捨てることは中国の名誉と信頼を傷つけている」過ちだと言う共産党の古参幹部達がいる一方で、「この際、生意気で厄介な金正恩を徹底的に潰すべきだ」と主張する学者もいる。

 いずれにしても習近平主席を「胃が痛く」なるような立場に追い込んでいるのは事実である。もちろん、習近平主席も必死に対応している。軍の組織再編や大移動などを実行するなどして国内の不満を逸らしたり、国産空母の完成を披露したりしている。ダライ・ラマ法王のインド北東部アルナチャル州訪問に過剰な反応をしているのも、国内の向けの世論操作に過ぎない。

 ダライ・ラマ法王は今まで7回同地域を訪問しているが、今回ほどヒステリックに反応したことはない。インド政府に対して「ダライ・ラマカードの政治利用」をやめるよう強く抗議したが、インド政府は「訪問は宗教的巡教活動であり、法王はインド政府貴賓であり、インド領内のどこへ行こうと自由であり、中国こそ内政干渉すべきでない」と反論し、訪問は続行された。しかし、中国は「ダライ・ラマの行動は宗教の名に偽装したチベットの独立運動である」として連日、法王批判のメディアキャンペーンを展開している。

 中国はASEANの国々、特にフィリピンに対して積極的なロビー活動を展開し、南シナ海への侵出への批判を排除又は回避する事に成功している。これは中国の経済外交の成果とトランプ大統領の不安定言動による混乱も寄与している。

 例えば、ショージ・ブッシュからオバマまでの歴代大統領がホワイト・ハウスにダライ・ラマ法王を迎え入れたが、7月の訪問に関してトランプ大統領は消極的な姿勢を示している。これも中国の強い働きかけの成果である。

 もちろん、議会関係者は他の西欧諸国が中国のプレッシャーに屈伏している中で、アメリカは毅然とした姿勢を示すべきだとして継続的に助言している。

 だが、トランプ大統領は中国の人権問題、民族問題などについてはほとんど言及を避けている。ビジネスマンらしく「利益、国益」が最優先され「自由、民主主義、人権」など理念的価値観は二の次の態度を隠していない。外交予算の三割削減もその延長線上のトランプ大統領の国策で、オバマ政権とは正反対のようである。

 トランプと金正恩というアンプディクテブルな2人に振り回されている間に、漁夫の利を得ているのが中国のようにも見える。いつの間にか南シナ海の人工島は中国の領海として既成事実化されてきている。米国訪問中に受けた屈辱は、習近平主席にとって福を招く災いになってきている様子もある。

 北朝鮮のミサイル実験は深刻な脅威であることは否定する余地がないが、アジアの覇権を狙う中国の脅威が遥かに世界平和と地域の安全保障に脅威であることを実感しているアジアの国々は、読めないトランプ大統領と押し寄せる中国の脅威の狭間に戸惑い、地域の大国日本とインドに期待している向きもある。

 だが、それは安倍晋三という人物、ナレンドラ・モディという2人のカリスマ的リーダーのリーダーシップとそれぞれ国が持っている潜在的国力に対する期待に過ぎない。両国の国家的意思と国内事情などを理解していないようである。

 両国には私欲、企業益のために国益を犠牲にしても良いという勢力が存在していることを忘れている。

 偉大なアメリカは、経済のみでない自由、民主、正義を重視する国風を尊ぶことが含まれるのではないだろうか? 近視眼的に場当たりの国益追求に走るのではなく、世界の永続的平和と繁栄を追求することが偉大な国の要素ではないだろうか?

 木(北朝鮮)ばかりに気を取られて森(アジア)全体の安全保障を見忘れないことも大事であろう。

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