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―日本新秩序へ― 松田まなぶの国力倍増論

第13回 政官民に問われる人材活用の構造改革

松田政策研究所代表 東京大学大学院客員教授 前衆議院議員 松田 まなぶ

 人口減少が続く日本の国力維持増進の決め手は、一人当たり生産性の飛躍的上昇である。だが、日本は、それに必要な優れた人材や技術の活用に必ずしも成功している国ではない。

ガチガチ構造の組織社会

 まず、戦後経済システムの中核を成してきた大企業が中央官庁以上に官僚化している。終身雇用の日本では人材は大企業に集中しているが、50歳を過ぎた企業エリートたちの関心は専ら、関連会社等への良い条件での再就職の面倒をみてもらうことだ。新分野へのリスクテイクや企業改革よりも、現在のポストを大過なく過ごす。トップの耳に痛い企業改革案はコンサルに外注する。

 大企業の外では、有為な人材が起業しようにも、銀行は肝心の目利きをせず、資産格差が小さな日本にはエンゼル投資家もほとんど存在しない。頼りの大企業では、新規シーズ採択の意思決定に膨大な時間を要する。これでは激動する世界の動きについていけない。

 企業も銀行も責任回避体質が強く、誰もが否定しないエビデンスが揃わないと動かない。大きなカネを機動的に出せるのは、いまや中国勢ぐらいだとされる。新技術をサポートするのは国の役割でもあるが、各省庁の技官たちの牙城は、旧来の技術体系の枠を出た技術にとってはあまりにも堅牢だ。

 つまり、挑戦者にとって日本はガチガチ構造の国なのである。日本人成功者たちの多くが、その最初のチャレンジ成功の場は海外だった。

 ある著名な経営コンサルタントによると、日本の大手上場会社では、社長になるべくしてなった社長は50人に2人ぐらいの割合だそうだ。自分が社長を退いても会長、相談役として厚遇してくれる人を後継社長に据える。経済界はサラリーマン経営者だらけ、真の財界人がいなくなったと言われて久しい。

 企業内での組織や派閥のしがらみも、トップの思い切った決断を制約する。コーポレートガバナンスや物言う株主、社外取締役の導入などが本当に企業の生産性を高めることになるのかが注目される。

 トップによるガバナンスの強化の必要性は国についても言える。実は、加計学園で注目を浴びた国家戦略特区とは、そのために安倍政権下で導入された実験的な試みなのである。

 特定の事業者の挑戦を国がテーラーメイドの規制改革措置などで応援するために、各省庁の厚い壁を総理主導で突破するという仕組みだ。加計学園について、無かったとされる総理の指示がもしあったとしても、そもそもが総理主導そのものを制度化した法制度である。トップの強力なリーダーシップなくしてガチガチ構造の日本は前に進まないとの発想自体は、成長戦略全体を考える上でも不可欠な設計思想であろう。

人材参入が困難な日本の政界

 「公正公平な行政が歪められた」とは、一見、正論にみえるが、官僚が改革に抵抗する際の常套句なのである。そもそも公務員制度改革とは、官僚の首相官邸や政治に対する応答性を高めて、官僚支配の打破をめざすものだったはずだ。 だが、こうして政治主導が進められてきたものの、このところ、肝心の与党政治家たちの資質が問われる事件や報道が相次ぎ、最近では「二回生問題」までが言われている。

 政治家を選んでいるのは有権者だが、衆議院議員の場合、小選挙区制のもとでは各政党から候補者は一人ずつしかいない。有権者には事実上、政党選択という物差ししかない。その政党の評価は、時の「風」やメディア報道に左右される。かつての中選挙区制であれば、有権者には人物選択という物差しがあり得た。いまは政党選択を軸とする選挙だが、実際には、自民党は「自分党」とも言われ、議員や候補者自らが選挙区で組織を作り、個人の顔を地道に地元で売り込むタイプの選挙活動が通例である。

 本来、政権交代可能な小選挙区制が想定しているのは、近代型政党と言われる政党の姿であろう。選挙活動は、特定の理念を掲げる政党を支持する人々による政党組織が担う。議員の役割は政党の政策を訴え、国政に専念することである。日本では、この近代型政党に近いのは公明党や共産党だけだとされる。日本が参考にした英国で営まれる党営選挙のもとでは、有為な人材であれば、あえて地元とは無縁の候補者を据えてきた事例も多いと聞く。日本の衆議院議員の本業とはズバリ、選挙区を回って次の選挙で当選することである。本来、国政を担うことを有権者が期待して当選した国会議員たちであるはずだが、議員本人の関心は、どうしても地元のほうを向きがちだ。

 日本ではいまや、どれだけ国政にふさわしい人材であっても、一般社会から政界に人材が広く新規参入することは極めて困難である。それまで築いてきた全てを捨てないと選挙に出られない日本では、キャリアや経験を重ねてきた有為な人材であればあるほど、個人が背負うリスクがあまりに大きい博打の如き選挙には出ようとしなくなっている。

 その意味で、近代型政党が保守系にも誕生することが待たれるが、新党設立は現実には資金面でも大変な難題だろう。政界への人材確保のためには、他国に事例があるように、例えば公務員でも選挙に出て落選したら再び公務員に戻れるような仕組みを創るなどの工夫が必要かもしれない。

人材活用へ柔軟な仕組みを

 公務員については天下り問題が言われ、いまや各省庁が退官後の再就職を斡旋することはご法度だ。だが、組織を超えた人材の流動性を想定していない日本の企業社会のシステムのもと、官僚個人が自力で、その能力経験にふさわしい活躍の場へと再就職することは、実際には容易ではない。超高齢社会で働き盛りの世代にある官僚のせっかくの能力が活かされていない事例が続出している。

 他の先進国に比しても、年金など退官後の所得保障が薄い日本の国家公務員制度のもとで、霞が関は「退官後の生活保障共同体」となってきた。これが崩れたとなると、現職時代から退官後を考えて、特定の利権や政治家との結びつきに走るなど、それこそ公正公平な行政に専念しなくなる官僚が増える恐れがある。

 各官僚個人の資質をよく把握し、企業側のニーズとマッチングさせられるような、本格的なリボルビングドアの仕組みを民間に組み立てることが大きな課題だ。

 目を一般のサラリーマンに転じると、一人当たりの生産性の視点からは「一人二役三役時代」への転換も必要だ。会社人間、組織人以外の自分を持ち、社会に付加価値を生む志や能力のある人は数多い。各企業も官庁も、広く、時間外での社外活動への従事や非営利組織やNPOとの兼業を認め、奨励していくべきだ。

 しかし、米国などに比して、企業や個人からのNPOなどへの寄付が圧倒的に少ない日本では、非営利活動の面でも財源の壁が大きい。

 日本は四半世紀にわたって対外純資産残高が世界ダントツ一位を続ける国だ。政府にも庶民にもおカネはないが、他方で、国内で運用しきれないおカネが海外に大量に溢れ出ている。志ある有為な人材や新たな技術シーズを評価し、これを十分に活用できるよう流動化させ、そこにあり余っているはずのおカネが投入されるメカニズムを、どう構築するかが課題だ。

 そうしなければ、せっかくの人材力、技術力を活かしきれないまま、人口減少社会の日本の国力は衰退する一方だろう。日本の命運は、政官民各界を問わず、挑戦者をサポートできる仕組みを創れるかどうかにかかっている。


まつだ まなぶ

 1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。

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