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インタビュー  中川雅治 環境大臣 に聞く

持続可能な社会構築する 環境問題には国境がない

 わが国は公害を克服した経験に基づく世界一の環境技術を使い、世界が抱える環境問題にアプローチできる立場にある。「環境問題に国境なし」と断言し、持続可能な社会構築を政治家としてライフワークとする中川雅治環境大臣にインタビューした。
(聞き手=松田まなぶ本誌論説委員長)


──中川大臣は環境省事務次官を経験されており、事務次官経験者がその役所の大臣になる事例は近年では珍しいことで、満を持してのご就任だと思うが、環境大臣として最も取り組みたい課題は何でしょうか?

 私は、もとは大蔵省の役人だけれども、理財局長をやり、平成13年1月、環境庁が環境省になった時に、環境省総合環境政策局長に就任し、翌年同省事務次官になった。

 環境省が役人生活最後の仕事場だった。それから、参議院選挙に出馬して13年たったところだが、その間も自民党の環境部会長とか、参議院の環境委員会に所属して、環境問題をライフワークとして活動の柱に据えてきた。

 今回、環境大臣という大きな役目を頂き、古巣の環境省に戻ってきた。

 ただ、昔に比べて環境省の活動範囲が広がった。東日本大震災が起きて、環境省に福島の復興という大きな役割が任務として加わった。除染や中間貯蔵施設の整備、あるいは放射性物質汚染廃棄物の処理、福島の県民の健康管理といった重大な責務がある。

 それと原子力規制委員会という独立性の高い機関が、環境省の外局という位置付けになっている。その原子力規制委員会のサポートをしていくというのも環境省の大きな仕事だ。

 環境省は人員も予算も、私が局長や事務次官をしていた時に比べ、非常に大きくなっている。それだけに責任は重大だ。その責務を全力で全うしていきたい。

 特に取り組みたい課題は、まずは福島の復興を被災地のみなさまの気持ちに寄り添いながら、しっかり着実に進めていきたいと思う。

 それと地球温暖化対策だ。また、自然環境を守る仕事もあり、こうした取組を通じて、環境政策を経済の成長の牽引力にしていきたいと思う。

 そうした気持ちで環境省に与えられている課題を1つ1つ、全力で取り組んで結果を出していきたい。

──大臣は平成16年に「環境立国」という本を出版されている。長い間、環境問題の専門家として携わってこられたわけだが、第一次安倍政権の頃には、政府は「21世紀環境立国戦略」を策定し、そこには地球環境問題の解決に日本の強さを活かしていくことが謳われていた。今は2012年閣議決定の「第4次環境基本計画」が政府の基本方針なのだろうと思うが、現在の安倍政権のもとでは、「観光立国」と言う言葉はよく聞かれるものの、環境立国という理念はどのような位置づけになっているのか。私はかつてある党のマニフェストに、「世界一の環境型先進国家」という言葉を盛り込んだことがあるが、環境分野に日本の強さをどう活かしていくのか、そのような視点から、大臣のお考えを聞かせていただきたい。

 環境上の課題を解決するための取り組みが、同時に経済成長や社会経済上の課題の解決にもつながる。それによってもたらされた成長が、環境保全のさらなる推進力となる、という好循環を目指す。すなわち、環境問題と社会経済問題の同時解決と好循環が実現することが、現下の喫緊の課題であり重要な点だ。

 例えば、省エネや再エネ設備の導入によるCO2排出削減が、同時に省エネ、再エネ産業の発展といった経済成長をもたらし、それがさらなる環境保全の推進力となる。

 また、環境省では「明日の日本を支える観光ビジョン」に基づき国立公園満喫プロジェクトを実施しているが、このプロジェクトは国立公園の自然資源を守りながら、インバウンドの増大により、地域振興や地域活性化につなげようというものだ。

 第5次環境基本計画においては、環境政策による「経済・社会的課題の同時解決」と「経済社会システム・ライフスタイル・技術のイノベーションの創出」により将来にわたって質の高い生活をもたらす「新たな成長」の牽引という方向性を提示するよう、来春の閣議決定を目指して策定に取り組んでいる。

──日本の場合は自然との共生とか、循環型社会の経験、公害を克服した経験、あるいは世界一の環境関連技術といった強みがある。こうしたことを活かしながら政策を進めていくということを期待しているが、そういう理解でいいのでしょうか。

 その通り。

──環境立国として地球環境の保全を国是として掲げる立場にある日本が、福島の原発事故を起こしてしまった。この問題の解決で世界のモデルを示す責務が日本にはあると思うが、私も議員だった時に、「トイレのないマンション」論が盛んに言われていた記憶がある。高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場をどうするのか、この問題について大臣はどうお考えか。

 原子力発電を考える時に、非常に大きな課題であることは間違いない。

 役所でいえば、経済産業省や資源エネルギー庁の問題になると思うが、今、最終処分場をどこにするのかということで、それに適した地域を日本の国土を調べてマップを作っている。

 ただ、実際には、地元との調整など、課題があって非常に難しいのが現状だ。

 最終処理場というのは原子力発電を国として持つ以上は避けられない課題であり、国を挙げて取り組まないといけない大きな課題だ。

──日本の国際的責務として、世界の環境問題にも貢献していく責任がある。近隣には、PM2・5問題や黄砂などいろいろな難しい問題を抱えている中国がある。私も中国の方々と話をする度に感じるのは、経済面での日本に対する期待は何といっても日本の技術であり、とりわけ環境技術についての日本への期待には並々ならぬものがあるということだ。こういった面で日本としてどういう役割を果たしていくのか。

 環境問題に国境はない。特に中国は日本との距離が近いため、お互いに情報共有や共同研究を進めて協力関係を進めていくことが重要だ。

 わが国は公害対策の経験や優れた環境技術を持っているため、これらを中国に紹介することで中国の環境問題の解決を支援することができる。ひいては環境改善にもつながる、そうしたことを期待している。

 PM2・5による大気汚染は、日中両国にとって最も重要な共通課題の1つだ。

 中国とは日中の自治体間で協力を進める日中都市間連携協力を通じ、モデル的な技術の導入や共同研究等を含めた総合的な研究協力を含めてトータルな活動を実施している。

 環境大臣に就任した8月、第19回日中韓3カ国環境大臣会合が韓国の水原市で開催され、中国の環境保護部の李部長とも会談した。その際に二国間の協力関係をさらに強化していくことを確認したばかりだ。

 また例年2月から5月に中国大陸からわが国への黄砂の飛来が確認されている。中国とは日中韓3カ国環境大臣会合の合意に基づき、日中韓3カ国による共同研究を進めている。具体的には黄砂の観測データを共有することで、各国の予測モデルを改善したり、植生回復技術をレビューすることにより、砂漠化地域の効果的な対策を強化することなどに取り組んでいる。こうした日中の連携が大事だと思う。

──地球環境問題といえば、最近の国際社会では温暖化対策としてのパリ協定があり、かつては京都議定書があった。パリ協定と京都議定書の大きな違い、パリ協定の意義といったものを、どのように説明しているのか。トランプ米大統領はパリ協定から離脱すると発言しているが、その影響など、大臣はどのようにとらえているのか?

 環境問題には国境がないわけだから、特に気候変動問題は先進国も途上国も全世界が協力して取り組まないといけない課題だ。その意味ではパリ協定という形で、多くの国が合意した温暖化対策を、各国が着実に責任を持って実施していくことこそが肝要であり、世界の国々がその実施状況を確認していく、こういう仕組みこそが大事だと思う。

 米国がパリ協定脱退を表明したことは、大変残念なことだが、世界は既に脱炭素化に舵を切っているから、この大きな流れは変わらないと思う。

 そのパリ協定脱退を表明している米国も、州とか企業レベルでは排出削減に向けた積極的な活動が広がりつつある。その意味では、米国に対し気候変動問題の取り組みへの必要性を、これからも働きかけて対話をしていく。そういう必要があると思う。

 いずれにしてもわが国は、パリ協定の締約国として同協定の2度目標の達成に向け、まずは国内のCO2排出の大幅な削減をしていきたい。こうした取り組みを着実に実行に移していく必要がある。

──パリ協定では、世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度Cより十分に低く抑えるとされている。これは日本が取り組んでいく上でもかなり大きな目標となり、相当な広がりをもった、社会全体の仕組みという観点から取り組まなければならない課題になってくると思う。例えば、スマートグリッド(次世代送電網)やIoT(モノのインターネット)など、新しい時代の動きに対応しながら社会システムそのものを変えていく政策が必要になっていくと思うが、環境省の役割も大きく拡大していくのでは?

 その通りで、1つは技術開発が大事となる。

 もう一つは、国民が環境にいいものを購入し使っていく。国民の環境意識の向上が大事だ。

 そのための国民運動が必要となる。今、COOL CHOICE、「賢い選択」と題して、省エネ家電や省エネ住宅、エコカーへの買換えなど国民の具体的な行動を、環境省としてしっかり引き出す努力と、経済性や利便性、快適さなどのメリットを全国に発信していくことが重要だと考えている。そういう運動の先頭に立ってやっている。

──脱炭素化や省エネなど、さまざまな環境対策を展開していく上では財源が必要であり、欧州の多くの国々には環境税がある。日本でもかつて、炭素税の議論があったが、結局、地球温暖化対策税と言う形になっている。ただ、先ほどの2度マイナスを達成するには世界的に膨大な資金が必要となり、これは公的資金だけでは到底まかなえない額だとされている。その中で、民間資金の活用が重要になってくると思うが、そういった点では「グリーンボンド」という構想がある。これをどういった形で推進していくのか?

 環境事業への資金調達に有効なグリーンボンドの発行というものが、世界で急増している。わが国でもこうしたグリーンボンドが普及していくことが期待されていて、環境省では今年3月に市場における実務担当者向けに、グリーンボンドに期待される事項や、具体的な対応例などを示したグリーンボンドガイドラインを策定し、普及を後押ししている。

 今後はモデル的な発行事例を創出し、グリーンボンドを初めとした環境金融の裾野がさらに広がり、環境事業への資金の流れが大きくなるよう取り組みを進めていく。

──具体的にどのような対策を講じていくのか。グリーポンドの市場を育成するとか、自治体での発行を促進していくなど、さまざまな方向が考えられるが?

 グリーンボンドが市場でさらに広く認知されるように、いろんな形で支援していく必要がある。

 グリーンボンドの資金調達では、明確な環境改善効果をもたらすグリーンプロジェクトに充当されるべきだが、プロジェクトの評価や選定プロセスというものを、発行体が事前に投資家に説明すべきだろう。

 発行体は調達資金の全額について、適切な方法により追跡管理を行うべきだし、追跡管理の方法についても、投資家に事前に説明すべきだ。そして発行体は、調達資金の情報を発行後に一般開示する、といった事項を満たすグリーンボンドの発行数を増やしていくため、今年度、グリーンボンドの発行モデルの創出事業を進めていきたい。

 それからグリーンボンドや地域資金を活用した低炭素化推進事業もやっていく必要があると思っており、来年度予算として要求しているところ。

──自治体が主体になっていくのか?

 自治体に限らず企業や金融機関も主体となる。実際にグリーンボンドが発行されている例として、日本政策投資銀行やメガバンク、野村総研などによるグリーンボンドがある。

 東京都では2016年に、環境サポーター債を豪ドル建てで出している。

 これは、都有施設の照明のLED化や太陽光発電設備の設置事業等を資金使途とする、グリンボンドのトライアル版という位置付けだ。

 今は大きな自治体や大手企業、銀行などに限られているが、これから大きく広げていく必要がある。

──投資家にとって透明性を高めて投資しやすい環境を作ると同時に、具体的なプロジェクトを推進していくことで人々の投資意欲を喚起していくことだと思う。

 ところで、低炭素型のエネルギー体系として「水素型社会」という言葉があり、東工大の柏木孝夫・特命教授によれば、安倍政権が大変熱心だと聞いている。とりあえずは自動車では電気ということでEVへの流れが中国や欧州などでも急速に進んでいるようだが、その次に待っているのは水素への動きだとも聞く。環境政策の立場からみて、将来的に水素型社会というものについて、どんなご意見をお持ちでしょうか?

 燃料電池車は水素を使って走る。一方、電気で走る電気自動車もある。これは二大エコカーということで、ガソリン車とかディーゼル車ではない、これからの目指す方向だと思う。

 ただ水素を作るときにCO2が出るものもある。その場合は、出たCO2をCCS(二酸化炭素回収貯留)で海底や地中に埋め込んでいくという技術が同時に実用化されていけば、CO2を出さないで水素が作れるということになる。

 それと水素は運ぶのが難しい。そうした運搬の仕方や水素スタンドの普及という課題もある。

 電気で走る電気自動車については、もともとの電気が石炭火力のような形で発電されていたのであれば、結果としてCO2がそれほど減らないことにもなりかねないので、その場合は再生可能なエネルギーなど、クリーンなエネルギーで電気を起こして、それを使って走らせていくという課題があると思う。

 いわゆる次世代自動車といわれている燃料電池車や電気自動車について、まだまだ課題はあるが世界はそういう方向に向いている。

 フランスやイギリスでは2040年までにガソリン車、ディーデル車の販売を禁止するという方針を発表しているし、中国もそうした方向に舵を切っている。

 日本もそういう流れは確実なので、しっかりと次世代自動車の普及促進を図っていかないといけない。

──大臣は昔、乗り合わせた飛行機でハイジャック犯を取り抑えたという武勇伝をお持ちだ。私も大蔵省勤務時に先輩である大臣からいろいろとご指導を賜ったが、そうした行動派の一面がおありなのは意外だった。大臣が行政を超えて政治の世界を目指されたのは、どういうきっかけだったのか?

 大蔵省で財政や税制の仕事をやってきた。しかし、これだけ大きな国の借金を作って、そのツケは将来世代にわたっていく。今の世代の人たちの様々な行政需要に応えるために歳出を拡大して、負担は先送りするという構図がずっと続いていることに危機感を持っていた。

 環境省に行っても、今の世代が快適な生活をするために、エネルギーを消費してCO2を出して地球温暖化という現象を招いて、そのツケは将来世代にずっと回っていくことに同じ危機感を抱いた。

 財政問題も環境問題も、将来世代を思いやった「持続可能な社会を作る」ことが、共通のキーワードになると思う。

 行政で公務員として仕事をしてきた時に持った危機意識を、政治の世界で解決の方向に向かうように努力できればと、こういう思いで政治家になることを志した。

──全く同感だ。特に持続可能な社会を作るためには、今の世代にそれなりの負担を求めなければならず、これは私も経験したが、政治的に大変難しい課題だ。このことに挑戦していく政治家がもっと出てこなければ日本の明日はないと思う。


なかがわ まさはる

 1947年2月22日、東京都目黒区駒場生まれ。1969年東京大学卒、大蔵省入省。同省理財局長、環境事務次官。2004年7月、参議院選に東京都選挙区から出馬、同選挙区トップで初当選。参議院自由民主党議員副会長、参議院議院運営委員長等を歴任。父は東京大学医学部助教授・東京共済病院長を務めた中川圭一氏。著作に「環境立国への道」(大成出版社)、「22世紀へのメッセージ」(大成出版)など。


【聞き手プロフィール】

まつだ まなぶ

 1981年東京大学卒、大蔵省入省。内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官。2012年日本維新の会より衆議院議員に当選。同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。

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