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ペマ・ギャルポのアジア時評

中国の脅威に目をそらすな

 北朝鮮のミサイルが日本を越えて飛び、核実験も強行した。安倍首相は「深刻かつ重大な脅威」と言う認識を持っているが、日本のメディアは評論家の気分で核の性能を論評している。日本が完全に北朝鮮の射程内に置かれていることの意味を、深刻に受け止めている様子がない。

 日本人の中には、北朝鮮の核問題は米朝の問題であって、安倍首相は憲法を改正するため北朝鮮の核の脅威を利用していると言う人までいる。わずかの防衛費の増額にも反対論を展開し、平和主義者を気取ってもいる。

 また、同盟国の米国が守ってくれると考えている人も少なくない。しかし、経済的に衰退、道徳的に劣化している米国は、もはや1950年代から90年代まで持っていた世界大国意識や正義感を堅持してはいない。だから、オバマ政権もトランプ政権も、中国の東シナ海進出や南シナ海の人工島建設問題、北朝鮮の核実験に対しても対応しきれないままだ。北朝鮮がICBM搭載用の水爆実験を可能になる前、早い段階から阻止すればこんなに手こずることはなかった。

 北朝鮮の暴走は中国の指図、少なくとも了解なしでできるとは考え難い。国連で北朝鮮への経済制裁を決議しても、それほど効果がないのは、北朝鮮が中国以外の国々とほとんど経済交流がないからだ。中国が北朝鮮の経済を支えている。したがって北朝鮮同様、中国に対しても経済制裁を実行すべきなのだ。

 ウクライナ問題では欧米の安全保障体制に直接、関係するからロシアに対し素早く経済制裁を実行しているが、東アジアの問題に関しては、中国の脅威を見て見ないふりをしている。

 筆者は元々遊牧民だ。幼い頃、羊など家畜を守る怖い犬の前を通る時、絶対に視線を合わせてはならないと教えられた経験がある。今、世界の覇権を狙い、着実に力を付けてアジア太平洋で活発に動いているのは中国であり、巨大な軍事力と経済力を持っている。

 怖い牧犬になった中国には米国でさえ、その脅威を見ないふりをし、視線をそらしている。

 安倍首相は、普通の国並みに日本国と国民を守ろうと努力はしている。例えば、北朝鮮がミサイルの発射や核実験を行う度に「差し迫った重大な脅威」と認識し、「厳重に抗議する」「同盟国米国と協議」、「国連安保理決議を発動する」など、政府として対応してきた。しかし、その努力こそ評価するものの、残念ながら的が外れている。

 第一に、国民は差し迫った脅威を実感していない。その理由は、よく言えば理想主義的、悪く言えば幻想主義的平和主義者がメディアと言論界を牛耳り、公共心が欠落した個人主義や精神的な尊いものの存在を軽視する風潮、経済(物資)優先の快楽消費社会が多数派になっているからだろう。

 第二に、直接抗議する相手と正式なチャンネルがないだけではなく、相手の体制そのものが言葉の抗議を理解し尊重する文化を持っていない。中国に仲介を託す事は、中国に対して借りを作るだけではなく、中国の国際社会における地位向上に貢献することになる。

 スリランカやミャンマー、そして最近はフィリィピンなどのように、中国は反政府武装勢力に武器を与え、政府軍にも軍事援助を与え、その仲介役までやっている。つまり、中国はマッチポンプ式に影響力を拡大し、アジアの覇権を拡大している。

 そのような中国に協力を求めるより、北朝鮮に対し言葉ではなく行動で核実験停止を要求すべきだ。日本では、中国とロシアを並列して言うが、北朝鮮の中国への依存度とロシアでは比較にならない。

 中国の北朝鮮への影響力を払拭したい陣営が、わざわざロシアを持ち出しているようにしか見えない。中国は、その気になれば北朝鮮のトップの首をすり替えることぐらい朝飯前だ。これは韓国も米国も簡単にできないことだ。

 第三に、同盟国米国との関係はもちろん大切だ。日本の繁栄と安全保障に大きく貢献してきたのも事実だ。しかし、長期的に考えると国家としての日本を骨抜きした罪も大きい。それは7年間の占領支配だけではなく、サンフランシスコ講和条約で日本国の伝統的価値観や国家観、民族意識などをリモコン式に破壊し、また日米貿易摩擦などを通して日本の経済成長を鈍化させてきた。

 従って、米国自身の世界覇権を堅持するため、共産主義国家のソ連や中国から日本の領土領海を物理的に守るため、防衛協定などを忠実に守ってきた。米国は日本の体( 領土、領海、領空)を守り、内臓と脳( 伝統的価値観や愛国心、民族意識、宗教)などを腐らせ、精神的弱体化に貢献した。結局、自分の国を自分で守る意思を失わせたのだ。

 だから、安倍首相が北朝鮮の脅威を「断じて許さない」と言っても、現状ではそれを裏付けるすべがないのが実情だ。

 オバマ前大統領の軟弱外交を批判し、勇ましく登場したトランプ大統領ながら、政権誕生時の補佐官や顧問をちり紙のように使い捨てにし、今や親族中心の政権で裸の王様に転身しつつある。朝夕の発言も朝令暮改で、二転、三転する。どこまで信用していいのか分からない。

 第四だが、国連はどうか。現在の安全保障理事会の常任理事国制度がある限り、安保理の決議に即効性のある効果は期待できない。せいぜいサプリメント程度だ。それも常任理事国の妥協があっての事だ。つまり、国連への過剰な期待は非現実的だ。

 結局、真のアジアの脅威は中国にあり、北朝鮮はその先兵的存在に過ぎない。

 なお、日本が自力で祖国を守るためには、質量にわたる国防力増強と国民の防衛意識の喚起が必要だ。

 それを可能にするための憲法改正を大胆に行うべきだ。

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