トップページ >

書 評

「 戦  場 」 マイケル・フリン 著

政治がインテリジェンス封印も

picture

 著者は大学時代に人権擁護活動を始めたことで、公安が部屋に踏み込み、現金を含め一切合財を持ち去られたことがあった。その返済を求めたが、当局は取り下げないと卒業証書は与えないと脅迫した。そして陳氏は「自発的に金は国家安全部に提出する」との録画を撮られる羽目になった。

 それが初めての中国公安機関と直接遭遇だった。公安は威嚇目的だったが、陳氏は怖がるどころか怒りに燃えた。この時から共産党へ断固反対の立場をとるようになった。党の本質的な非人間性と腐敗を感じたからだ。そして陳氏は「絶対に屈しない」と誓う。

 不屈の人権活動家を生み出したのは、共産党政権の不誠実さと暴力だった。

 奇しくもこの結論は、「私を強くしたのは中国共産党だ」と言う世界ウイグル会議のラディア・カーディル総裁と同じだ。

 共産党政権は「嘘と暴力」を使って政権維持を図ろうとする。真実への謙虚さに欠け、嘘で現実を糊塗しながら上辺だけ取り繕う。それが出来なくなった時には暴力で押し通す。暴力革命で誕生した共産党政権の宿命的悪だ。本書はその共産党政権の暴力と偽善に立ち向かう魂の記録だ。(白水社 本体2400円)


「不屈」盲目の人権活動家 陳光誠の闘い 陳光誠 著

「嘘と暴力」に抗う魂の記録

picture

 著者は大学時代に人権擁護活動を始めたことで、公安が部屋に踏み込み、現金を含め一切合財を持ち去られたことがあった。その返済を求めたが、当局は取り下げないと卒業証書は与えないと脅迫した。そして陳氏は「自発的に金は国家安全部に提出する」との録画を撮られる羽目になった。

 それが初めての中国公安機関と直接遭遇だった。公安は威嚇目的だったが、陳氏は怖がるどころか怒りに燃えた。この時から共産党へ断固反対の立場をとるようになった。党の本質的な非人間性と腐敗を感じたからだ。そして陳氏は「絶対に屈しない」と誓う。

 不屈の人権活動家を生み出したのは、共産党政権の不誠実さと暴力だった。

 奇しくもこの結論は、「私を強くしたのは中国共産党だ」と言う世界ウイグル会議のラディア・カーディル総裁と同じだ。

 共産党政権は「嘘と暴力」を使って政権維持を図ろうとする。真実への謙虚さに欠け、嘘で現実を糊塗しながら上辺だけ取り繕う。それが出来なくなった時には暴力で押し通す。暴力革命で誕生した共産党政権の宿命的悪だ。本書はその共産党政権の暴力と偽善に立ち向かう魂の記録だ。(白水社 本体2400円)


「プーチンの国 ある地方都市に暮らす人々の記録」

アン・ギャレルズ 著 築地誠子 訳

ロシアの内情炙りだす

picture

 本書は旧ソ連とロシアの40年にわたる著者の取材成果が収められている。何より記者仲間の友情と、心を開いて本音を聞き出しロシア人の勇気を引き出した著者の熱意なしには本書は完成しなかった。

 とりわけウラル山脈南部のチェリビンスク市に定住したり、定点観測しながら取材し続けた著者のこだわりがなかったら、これほど深いロシアの内情を抉り出すことは不可能だっただろう。同市に着目したのは「人工都市モスクワはロシアではない」とロシア人なら誰しもが口にする常識からだった。

 金がモスクワに集中し、モスクワの通りが外国車であふれていたころ、チェリビンスクは交通渋滞とは無縁で、さび付いたジグリやボルガばかりが走っていた。

 ソ連崩壊後、青空市場が国営店にとって代わり、防寒対策に目一杯着込んだ市民が、小銭を稼ぐため手製の服や安くて無税の中国やトルコからの輸入品を売りに出した。

 当時、最もお金になったのは金属補強したアパートの扉と3重の鍵を取り付ける仕事だった。急増する泥棒や暴力から財産を守るためだ。

 ロシアの公式統計でさえ、汚職によって国家予算の3分の1が食いつぶされている。

 心に残るのは唯一、お金を請求しなかったタクシー運転手の話だ。客は住所録を運転手に渡し、全部回ってくれという。指定された場所に着くとショートグラスに酒を注ぎ、飲み干し、車に帰ってきた。アフガンの退役軍人で命を落とした戦友の家の前で献杯していたのだ。悪のロシア人ばかりがメディアでは取り上げられがちだが、そういう純朴なロシア人もいる。(原書房 本体2700円)


「国民憲法制定への道」 世界平和研究所 編

中曽根憲法論70年の軌跡

picture

 今年99歳になる中曽根康弘元首相は5月1日、「新しい憲法を制定する推進大会」で、「明治憲法は藩閥政治の所産で、現行憲法はマッカーサー元帥の超法規的力が働いていた。憲法改正は国民自らが総意に基づき、憲法を作り上げる初めての作業だ」と挨拶した。

 昭和22年4月、現憲法施行目前の総選挙で衆議院議員に28歳で初当選して以来、70年に及ぶ中曽根氏の政治活動の中心が憲法改正。その軌跡を、主な著作、記事、議事録などで描いている。

 安倍首相が言及した9条については、21年2月の閣議で当時の幣原喜重郎首相が明確に反対しており、幣原首相がマッカーサーに申し出たという説は明らかな間違いだという。中曽根氏の改正案では、第1項の「戦争放棄」は残し、第2項の戦力不保持と国の交戦権否定は現下の情勢に鑑み、自衛権を認め、自衛隊を正式に承認する、となる。

 独立戦争や革命でつくられたアメリカや中国のような人工的な国家に対して、神話で建国が語られる日本は自然的な国家だという。だからこそ、国民の総意で憲法を作ることが重要になる。

 明治の日本が国語の統一や学制発布などで大急ぎで国民を育成したように、「第三の開国」とも言われるグローバル化時代に、新しい国民を形成する作業が並行しなければならない。国民憲法の制定は新時代の国民形成の道でもある。どのような国民になるか、国民一人ひとりが考え、行動すべき時代なのである。(文藝春秋 本体2400円)


「最後の超大国インド」 平林博 著

インドの魂を描く

picture

 著者は元駐インド大使で日印協会理事長で、鋭い観察眼と外交官として豊かな経験と同時に、公平な学識者としてのバランス感覚が滲み出ている。そうした客観性に加え、インドの国と国民に対し非常に暖かい眼差しを注ぎ、今までの日本人の偏見と潜入を正そうとする一面も強く感じさせる。

 日本には世界的権威としてインドの哲学、文化人類学、歴史に関する著作がないわけではない。また最近では、安全保障や経済に関する本も多く目にするようになった。だが、インドの国と国民を包括的に理解するためには、この本は秀逸だ。ただ情報やデーターの集積ではなく、著者とインドの魂がこの本には込められているからだ。

 ただ、小生の立場から見て足りないものが二つある。

 その一つは、大使自身の日印関係についての苦労と貢献についてきわめて控えめであることだ。これは日本人の美徳であることは理解できても、小生としては物足りなさを感じる。

 私は当時の農水大臣や防衛庁長官を務めた野呂田芳成代議士のかばん持ちでインドを往来し、大使の活躍を実際見ている。日本国大使として尊厳を保ち、毅然とした態度で、議論好きで、誇り高いインドのやや頑固な政治家や官僚達と真剣に向き合い、彼らの尊敬と信頼を勝ち取っている姿は小生には頼もしく感銘をうけた覚えがある。紙面上の配慮もあっただろうが、実際、日印関係で大きく舵を切った小渕恵三首相や議員外交で成果を上げ、インド政府から評価され外国人に贈る最高の勲章を受けた野呂田芳成代議士のことについて紹介が足りないように思った。

 二つ目は、印中関係で「1959年、インドと中国はヒマラヤ地帯の国境をめぐって武力対立に陥った」と書いてある部分だ。これは元大使として、外務省のことを考えての外交的配慮かもしれないが、同年3月10日にチベットの首都ラサで中国共産党の抑圧に対するチベット民族の蜂起とダライ・ラマ法王がインドに亡命したことによって生じた国境紛争である経緯と真実を濁しているのは残念だ。

 なお私は52年前、インド政府発行の難民パスポートで日本を訪れ、以来両国を往復し、両国関係をつぶさに見守って来た。両国の関係は常に良好であったが、強いて言えばインド側の方がやや片思いの様相がなかったわけではない。

 その日印関係が急転回したのは平林大使の在任中からだ。日本とインドだけではなく世界の未来に関心ある人はぜひ、この本を一読してほしい。 ( 日経BP社 本体1700円)

 拓殖大学国際日本文化研究所教授 ぺマ・ギャルポ

この記事のトップへ戻る