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回顧録⑮

上り4年、下り4年の「運の法則」

日本経営者同友会会長 下地常雄

 「運の法則」を説いた本が最近、出版された。読んで見ると、私が考えていることと同じことが書かれていた。

 例えば博打でも馬鹿つきしている時があっても、いずれ運は尽きる。大体、すべてのことに周期があって、上り4年、下り4年だ。

下り坂で悪あがきするな

 上り調子の時というのは、何をしても成功する。しかし、4年ぐらいたって、更に大きくやろうと思うと、とんでもないしっぺ返しをくらうことがある。

 ジェットコースターではないが、運気が一気に下落していくのだ。

 そんな時には、いろいろなことに手を出しても、単なる悪あがきにすぎないものだ。運気は既に落ちているのだから、大きな賭けに出ると、火に油を注ぐような甚大な損害を被ることがある。

 一息入れてちょっと様子を見る余裕こそが必要だ。そうすれば被害が少ない。4年ぐらいじっと我慢して、上がり調子に転じた時、思い切った手で事態を好転させることがある。

 自分に当てはめると、運気の山や谷を確信した経験がある。

 石原慎太郎氏から譲り受けた日本経営者同友会は一時、社員が150人ほどにまで拡大し多くの政治家も集まるようになった。だが、ここで私の傲慢の虫が騒ぎ出した。このように人間として驕りが出た時は、既に下り坂なのだ。

人生、最期は帳尻が合う

 大方、人というのは謙虚な心根の人が伸びるものだ。ただそうはいっても、逆に悪い奴ばかりが伸してくることもある。人を騙したりして、繁えることがあるのも事実だ。残念ながら清く正しく美しくだけの世の中ではない。不条理な社会の側面だ。

 しかし、そういう人たちは、往々にして悲惨な晩年を迎えるケースが多い。

 「人生、最期は帳尻が必ず合う」ものだ。僕の周囲には、悲しい人生の末路を辿ったエゴイストがいっぱいいる。

 ただ、下がる時というのは、次の飛躍をもたらすジャンプボードにもなるから落胆する必要はない。

 上り調子の時は、発展しているから、そのおこぼれをもらおうとみんながついてくる。宝くじに当たると、途端に親戚が増えるというのと同じだ。しかし、何かあっておかしくなり始めると、途端に離れていく。損得で離合集散を繰り返すのが世の常だから、それは仕方がないことだ。だが黙って離れるのはいいが、中には手のひらを返した上に足まで引っ張る輩も出てくる。

 私もヤオハン倒産の時、誇大妄想や嘘つき呼ばわりもされたし、前科があるだのと誹謗中傷を受けたこともある。何だかだといわれても、それが世の常かとあきらめた。

困難な時の友こそ真実の友

 下り坂になるとそこで「真の友か偽者」かがふるいにかけられ、友人の真贋がはっきりしてくる。

 困難な時の友こそ、真実の友だ。

 だから、下り坂の時こそ、本物の友人を得ることができるビッグチャンスだとも言えよう。

 人生の浮き沈みを経験することで、人を観る目が鍛錬され仕分けができるようになった。おかげで目利きとなり間違うリスクが少なくなった。

 私は来る者拒まずで社名や肩書きで人を分け隔てすることはない。

 原石の中に金が入っているかダイヤが入っているか分からない。人間もそうだ。その目を肥やすには、経験しかない。本を読んだりしても無駄だ。第六感というか感性を経験を通し磨かなければならない。

心ばかりのもてなし

 同友会事務所を訪ねてくれる知人から「会長はどんなに忙しくても、いつもエレベーターまで送ってくれるけど、誰かからそうするように言われたことがあるのか」と聞かれたことがあった。

 無論、第三者から指針を受けたわけでは決してない。わざわざ訪ねて来てくれた人への感謝をこめて、心ばかりのもてなしと思うだけだ。

 家内には「例え、うちを訪ねて来た客が、俺を殺しに来た刺客であったとしても、あなたには関係ないことだから、嫁としてちゃんと応接間に通してお茶を出しなさい。それがあなたの仕事で、この客をどうするかは俺が考えることだ」と言い含めている。会社でも同様だ。

 だから来た人は必ず、部屋に入れる。

 ヤオハン倒産のあおりを受けた時、取立て屋が来ていろいろ言われるようなことがあった時でも、帰る時には必ずエレベーター前まで送っていった。

フィルターがかかった報道

 私の会長室にはテレビがない。これを不思議がる客も多い。

 テレビは家に帰って観ればいい。あくまで事務所は仕事場だ。だからテレビは置かない。至ってシンプルな話だ。

 テレビや新聞には、真実の報道も記事もない。それぞれ、テレビ局や新聞社のフィルターがかかり、必ずしも真実ではない。

 だからあまり関心がないというのもある。大きな世の中の流れを知るには意味があるかもしれないが。

 新聞で本当のことを書いているのはどこか。それは死亡欄と株価・TV番組だ。これが角栄氏の持論でもあった。

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